今週の担当 Right
4月。私には一生忘れられない出来事がある。あの日は確か桜がピークの時期だった。
放課後、私は桜並木を歩いていた。立ち止まって空を見上げると花びらがヒラヒラ降ってきた。花びらを捕まえて、私は歩き出した。家の近くの公園まで行くとかベンチに座っている男の子がいた。体調が悪いのかぐったりしているように見えた。心配になって声をかけた。
「あの、具合が悪いんですか?水買ってきましょうか?」
彼は顔を上げてまじまじと私の顔を見てきた。無言の時間が続いた。具合が悪そうな顔はしていなかった。
「ねえ・・・・君名前何?」
私は急な質問に戸惑ってしどろもどろに答えてしまった。
「あ、えっと・・は、春菜」
彼はなんで私に名前を聞いてきたんだろう。気になった私は思い切って聞いてみることにした。
「なんで名前なんか聞くの?」
彼は少し困った顔をしてから
「うーん。特に理由はないかな。強いていうなら気になったから」
ニコッと微笑んだその顔に私はドキッとしてしまった。
「あ、そうだ。私、君の名前聞いてないな。教えてよ。」
私だけ言うなんてなんだか嫌だったのもあるけど、少し気になった自分もいる。
「俺?俺の名前はね・・・。」
彼は少し口ごもって一瞬顔が曇った。
「颯真。よろしくね。」
彼は笑顔で答えたけど、曇っていた顔が少し気になった。気のせいかな。
初対面のはずなのに彼の名前にはなぜか愛着が湧いた。
それから私と彼はベンチに座り長い間話していた。彼とは仲良くなり、LINEも交換した。
家に帰るとお母さんが夕食を準備して待っていた。
「おかえり。手を洗っておいで。ご飯食べよう。」
私はお母さんの料理が大好きだ。お母さんの料理はどんな食べ物よりも美味しい。
お母さんに今日の出来事はなんとなく言わないでおいた。
私は寝る準備をして、自分の部屋に入った。その時だった。彼から電話がかかってきたのだった。びっくりした衝動で電話を許可してしまった。
「もしもーし。急に電話ごめん。ちょっと話あるんだけどいい?」
私は不思議に思いながらもいいよと言った。
「あのさ、明日暇?もし良かったらどっか出かけない?」
明日の予定は特に何もなかったから行くことにした。
「明日用事ないから行けるよ。」
私は用事がないことに少し喜んでいた。
「お、まじ?じゃあ1時に駅前集合で!」
彼は元気よく言った。いいよと言おうとしたらプツッと電話が切られた。彼は私の返事を聞かずに切ってしまったのだ。呆れながらも私は少し気分がルンルンだった。
「よし。明日に備えて、今日はもう寝よう。」
そうして私は眠りについた。
使った語句 ピーク・まじまじ・しどろもどろ・口籠る・愛着